食事中でもなく、冷たいものを口にしたわけでもないのに、突然歯がズキズキと痛み出す。
鏡で見ても黒い穴は見当たらず、「虫歯ではなさそうなのに、なぜこんなに痛むのか」と不安を覚える人は少なくありません。実は、歯の痛みの原因は虫歯だけではありません。
知覚過敏や歯周病、歯ぎしりといった歯まわりのトラブルのほか、副鼻腔炎や神経の病気、さらには心臓の病気が「歯の痛み」として現れることもあります。
本記事では、何もしていないのに歯が痛むときに考えられる原因を、歯の病気と歯以外の病気に分けて整理します。あわせて、自分でできる応急処置や、どのタイミングでどの医療機関を受診すべきかの目安も解説します。
なお、記載している数値や情報は、厚生労働省など行政機関が公開している資料をもとにしています。
何もしていないのに歯が痛むときに考えられる状況とは
何もしていないのに歯が痛む場合、原因は虫歯に限らず、歯ぐき・歯の根・あごの筋肉、さらには鼻や神経、心臓といった歯以外の場所にあることもあります。まずは「どのような痛みか」を観察することが、原因を絞り込む第一歩です。
「ズキズキ」「ジーン」など痛み方によって考えられる原因は異なる
歯の痛みは、その感じ方によって背景にある原因がある程度推測できるとされています。脈打つような「ズキズキ」とした痛みは、歯の神経(歯髄)や歯の根の先、歯ぐきなどに炎症が起きているときにみられやすい痛み方です。横になったり体が温まったりすると強くなる傾向があり、夜間に目が覚めるほどの痛みになることもあります。
一方で、「ジーン」「キーン」と一瞬しみるような痛みは、歯の内側にある象牙質が露出したときに起こりやすいとされています。また、どの歯が痛いのかはっきりせず、上下の奥歯全体が重だるく感じる場合は、歯ぎしりや食いしばりによる筋肉の疲労、あるいは副鼻腔の炎症など、歯以外に原因があるケースも考えられます。
さらに、顔の片側に電気が走るような鋭い痛みが数秒ほど繰り返す場合は、神経そのものの病気が疑われることもあります。痛みの種類・続く時間・痛む範囲・痛みが強くなるタイミングをメモしておくと、受診時に医師へ正確に伝えやすくなります。
虫歯以外が原因の歯の痛みは決して珍しくない
「歯が痛い=虫歯」と考えがちですが、虫歯以外の原因で歯が痛むことは決して珍しくありません。たとえば歯周病は、歯を支える歯ぐきや骨に炎症が広がる病気で、厚生労働省の情報サイト「e-ヘルスネット」によると、歯科疾患実態調査では4mm以上の歯周ポケットを持つ人の割合が45歳以上で過半数を占め、歯ぐきからの出血はどの年齢層でもおよそ4割にみられるとされています。
また、歯ぎしりや食いしばりは本人が自覚しにくく、知らないうちに歯やあごへ負担をかけていることがあります。さらに、心臓の病気や帯状疱疹のように、歯とは直接関係のない病気が「歯の痛み」として感じられるケースも報告されています。
虫歯が見当たらないからといって「様子を見れば治るだろう」と自己判断で放置すると、原因となっている病気の発見が遅れるおそれがあります。痛みが続く場合や、普段と違う強い痛みを感じる場合は、早めに専門家へ相談することが大切です。
虫歯じゃないのに歯が痛む主な原因【歯・歯ぐきのトラブル】
虫歯がなくても、歯の表面や歯ぐき、歯の根、歯を支える組織に問題が起きると痛みが生じます。
ここでは、歯科医院で原因として挙げられることの多い代表的なトラブルを紹介します。
知覚過敏(象牙質知覚過敏症)
知覚過敏は、虫歯や歯の神経の炎症がないにもかかわらず、冷たいものや歯ブラシの刺激などで歯に一時的な痛みが走る状態です。正式には「象牙質知覚過敏症」と呼ばれます。痛みは刺激を受けた瞬間に起こり、多くは短時間で治まるのが特徴とされています。
「何もしていないのに痛い」と感じる場面でも、実際には呼吸で吸い込んだ冷たい空気や、唾液の温度変化などのわずかな刺激が引き金になっていることがあります。とくに冬場や、エアコンの効いた部屋で口呼吸をしているときに症状を自覚する人もいます。
知覚過敏は放置しても命にかかわるものではありませんが、痛みが続くことで歯みがきがおろそかになり、結果として虫歯や歯周病を招くという悪循環に陥ることがあります。また、知覚過敏だと思っていた痛みが、実は初期の虫歯や歯のひび割れだったというケースもあるため、自己判断は禁物です。
歯ぐきの下がりやエナメル質のすり減りで象牙質が露出する仕組み
歯の表面は、体の中でもっとも硬いとされるエナメル質で覆われています。その内側にある象牙質には、歯の神経へとつながる細い管(象牙細管)が無数に通っており、象牙質がむき出しになると外からの刺激が神経に伝わりやすくなります。
象牙質が露出する主な原因としては、加齢や歯周病による歯ぐきの下がり、力を入れすぎた歯みがき、歯ぎしりによる歯のすり減り、酸性の飲食物による歯の表面の溶解(酸蝕)などが挙げられます。複数の要因が重なって起こることも少なくありません。
冷たいものだけでなく何もしていなくても痛むケース
知覚過敏の痛みは通常、刺激がなくなればすぐに消えます。
しかし、症状が進んで象牙質の露出範囲が広がったり、歯の神経が過敏な状態になったりすると、刺激が少なくても痛みを感じやすくなることがあります。
一方で、何もしていない状態でズキズキとした痛みが長く続く場合は、知覚過敏ではなく、歯の神経に炎症が起きている可能性も考えられます。「しみる痛み」が「持続する痛み」に変わってきたときは、歯科での診察を受けるひとつの目安といえます。
歯周病の急性化による歯ぐきの腫れと痛み
歯周病は、歯と歯ぐきのすき間にたまった細菌によって歯ぐきに炎症が起こり、進行すると歯を支える骨(歯槽骨)が溶けていく病気です。初期は痛みなどの自覚症状が出にくいため、気付かないうちに進行しているケースが多いとされています。
ところが、体の抵抗力が落ちたときなどに炎症が急に強まる「急性化」が起こると、歯ぐきが赤く腫れ上がり、ズキズキとした痛みや膿(うみ)が出ることがあります。歯が浮いたように感じたり、噛むと痛んだりするのも特徴です。
この急性症状は、抗菌薬や鎮痛薬で一時的に落ち着くこともありますが、原因である歯周病そのものが治ったわけではありません。痛みが引いた後も、歯科医院で歯石除去などの治療を続けることが、再発を防ぐうえで重要とされています。
45歳以上の過半数に歯周ポケットがみられるという調査結果
厚生労働省のe-ヘルスネットでは、全国調査である「歯科疾患実態調査」のデータをもとに、4mm以上の歯周ポケットを持つ人の割合は年齢とともに高くなり、45歳以上では過半数を占めると解説されています。
また、歯ぐきからの出血がある人は、どの年齢層でもおよそ4割にのぼるとされています。
なお、よく耳にする「日本人の8割が歯周病」という表現について、同サイトでは、以前の調査方法で歯肉出血・歯石・歯周ポケットのいずれかが認められた人が約8割だったことに由来し、少しでも歯石がついていれば「所見あり」と評価されるため、やや大げさな捉え方であると説明されています。
とはいえ、歯周病が身近な病気であることに変わりはありません。
疲れや睡眠不足で症状が悪化しやすい理由
歯周病の原因菌は、多くの人の口の中に存在しています。
普段は体の免疫力によって炎症が抑えられていますが、疲労や睡眠不足、強いストレス、風邪などで免疫力が低下すると、細菌の勢いが増して炎症が急に悪化することがあります。
厚生労働省の「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」でも、全身のストレスは歯周病などさまざまな歯科疾患の発症や悪化の要因になることが広く知られていると紹介されています。
「忙しい時期に限って歯ぐきが腫れる」という経験がある場合は、生活リズムを見直すことも大切です。
歯ぎしり・食いしばりによる歯や歯根膜への負担
歯ぎしりや食いしばりは、虫歯がないのに歯が痛む原因として比較的よくみられるもののひとつです。
厚生労働省のe-ヘルスネットによると、歯ぎしりは歯をこすり合わせる「グラインディング」、強く噛みしめる「クレンチング」、カチカチと噛み合わせる「タッピング」などに分類され、睡眠中だけでなく起きている間の動作も含めて「ブラキシズム」と呼ばれることがあります。
歯と骨の間には、クッションの役割を果たす「歯根膜」という薄い組織があります。歯ぎしりや食いしばりで強い力が繰り返し加わると、この歯根膜に炎症が起き、歯が浮いたような感覚や、噛んだときの鈍い痛みが生じることがあります。特定の歯ではなく、複数の歯がなんとなく痛むのが特徴です。
歯ぎしりは自覚症状がない場合も多く、家族に指摘されて初めて気付く人も少なくありません。
原因としてはストレスや歯並びなどが考えられていますが、e-ヘルスネットでは現時点では明らかになっていないとされています。
睡眠中の歯ぎしりが歯やあごに与える影響
睡眠中は意識によるブレーキがかかりにくいため、起きているときよりも強い力で噛みしめてしまうことがあるといわれています。e-ヘルスネットでは、歯ぎしりが習慣化すると歯がすり減るだけでなく、あごの関節に力が伝わり、顎関節症や顔面痛、筋肉の緊張による頭痛・肩こりなど、さまざまな症状が起こる可能性が示唆されていると解説されています。
さらに、冷たいものがしみる知覚過敏や、歯周病を悪化させる要因になるとも考えられています。
歯の根元がくさび状に削れていたり、詰め物が何度も外れたりする場合は、歯ぎしりの影響が隠れていることもあります。
朝起きたときに歯やあごがだるい・痛むときのサイン
朝起きたときに、歯が浮いたような感じがする、あごの付け根やこめかみがだるい、口が開けにくいといった症状がある場合は、睡眠中に歯ぎしりや食いしばりをしている可能性があります。
日中、気付くと上下の歯が接触していることが多い人も注意が必要です。
対処法としては、歯科医院で作製するマウスピース(スプリント)を就寝時に装着する方法などが研究・実施されています。気になる症状がある場合は、まず歯科で相談し、歯やあごの状態を確認してもらうとよいでしょう。
歯の亀裂・歯根破折
歯には、外から見ただけではわからない細かなひび(亀裂)が入っていることがあります。
硬いものを噛んだときや、歯ぎしりによる強い力が加わったときに生じやすく、とくに神経を取った歯は弾力が失われてもろくなるため、歯の根が割れる「歯根破折」が起こりやすいとされています。
外から見えないひび割れが痛みを引き起こすケース
歯のひび割れによる痛みは、噛んだ瞬間に鋭く痛む、特定の方向に力がかかったときだけ痛むなど、症状が出たり出なかったりするのが特徴です。ひびから細菌が入り込むと、歯の神経や根の周囲に炎症が広がり、何もしていなくても痛むようになることがあります。
亀裂はレントゲンでも写りにくいことがあり、診断には歯科医師による詳しい検査が必要です。破折の程度によっては歯を残すことが難しくなる場合もあるため、「噛むと痛い」という症状が続くときは早めの受診が勧められます。
過去に治療した歯の神経や根の先の炎症
以前に虫歯治療をした歯でも、詰め物や被せ物の下で再び虫歯が進行したり、歯の神経に炎症が残っていたりすると、痛みが出ることがあります。表面からは治療済みの歯にしか見えないため、「虫歯はないはず」と思い込みやすい点に注意が必要です。
神経を取った歯でも痛みが出る理由
「神経を取った歯は痛まない」と思われがちですが、根の中に細菌が残っていたり、治療後に再び細菌が入り込んだりすると、歯の根の先(根尖)の周囲にある骨や組織に炎症が起こることがあります。
これを根尖性歯周炎と呼びます。
根の先の炎症は、普段は無症状でも、体調を崩したときなどに急に悪化し、歯ぐきの腫れや噛んだときの強い痛み、何もしていなくても続く鈍い痛みとして現れることがあります。治療には根の中を清掃・消毒する根管治療などが行われますが、治療法は歯の状態によって異なるため、歯科医師の判断が必要です。
親知らずの周囲の炎症(智歯周囲炎)
親知らず(第三大臼歯)は、口のもっとも奥に生えるため歯ブラシが届きにくく、斜めに生えたり一部だけ歯ぐきから顔を出したりすることがよくあります。
歯と歯ぐきのすき間に汚れがたまりやすく、そこで細菌が増えて炎症を起こした状態が「智歯周囲炎」です。
症状としては、奥歯の歯ぐきの腫れやズキズキとした痛みのほか、口が開けにくい、飲み込むときに喉が痛むといったものがあります。炎症が強くなると顔が腫れたり発熱したりすることもあります。
疲れやストレスで免疫力が落ちたときに繰り返しやすいのも特徴で、症状によっては抜歯が検討されることもあります。
虫歯じゃないのに歯が痛む主な原因【歯以外の病気】
歯科で詳しく調べても歯や歯ぐきに異常が見つからない場合、痛みの原因が口の外にあることがあります。
歯の痛みとして感じられる病気の中には、早急な対応が必要なものも含まれるため、代表的なものを知っておくことが大切です。
副鼻腔炎(上顎洞炎)による上の奥歯の痛み
鼻の周囲には「副鼻腔」と呼ばれる空洞があり、そのうち頬の奥にある最も大きな空洞を「上顎洞(じょうがくどう)」といいます。風邪や鼻炎などをきっかけに、この上顎洞に炎症が起きて膿がたまった状態が上顎洞炎(副鼻腔炎の一種)です。
上顎洞炎では、鼻づまりや色のついた鼻水、頬の痛みや圧迫感などに加えて、上の奥歯が痛むことがあります。
歯そのものには異常がないにもかかわらず、複数の奥歯が同時に重く痛むように感じられるのが特徴です。
反対に、上の奥歯の根の先の炎症が上顎洞に広がり、副鼻腔炎を引き起こす「歯性上顎洞炎」というケースもあります。歯と鼻のどちらが原因かによって治療の進め方が変わるため、歯科と耳鼻咽喉科の両方で確認することが望ましい場合もあります。
上の奥歯の根と上顎洞は近い位置にある
上の奥歯(とくに第一・第二大臼歯付近)の根の先は、上顎洞の底と非常に近い位置にあります。
人によっては、歯の根の先がほぼ上顎洞に接していることもあるとされています。
このため、上顎洞の炎症による圧力や刺激が、奥歯の神経に伝わって歯の痛みとして感じられることがあります。
逆に歯の炎症が上顎洞へ波及しやすいのも、この位置関係が理由です。
風邪や花粉症のあとに歯が痛むときの見分け方
風邪や花粉症の時期に上の奥歯が痛み出した場合、副鼻腔炎が関係している可能性があります。
目安としては、片側の上の奥歯が数本まとめて痛む、下を向いたり頭を振ったりすると痛みが強くなる、鼻づまりや粘り気のある鼻水がある、といった特徴が挙げられます。
ただし、これらはあくまで目安であり、症状だけで原因を判断することはできません。
鼻の症状がなくても上顎洞に炎症があることもあるため、気になる場合は医療機関で画像検査などを受けて確認することが大切です。
三叉神経痛による電気が走るような激痛
三叉神経は、顔の感覚を脳に伝える神経で、おでこ・頬・あごの3つの領域に枝分かれしています。
この神経が血管などに圧迫されることで起こるとされるのが三叉神経痛です。
頬やあごの領域に痛みが出ると、歯や歯ぐきが痛んでいるように感じられることがあります。
三叉神経痛は、歯の治療をしても痛みが改善しないことから、歯科で原因が見つからず、複数の医療機関を受診してから診断に至るケースもあるといわれています。
顔の片側に繰り返し強い痛みが出る場合は、歯科だけでなく脳神経内科や脳神経外科への相談も選択肢になります。
一瞬の電撃痛が繰り返し起こるのが特徴
三叉神経痛の痛みは、一般的に「電気が走るような」「針で刺されたような」と表現される鋭い痛みで、数秒から長くても数分程度で治まり、それを何度も繰り返すのが特徴とされています。
洗顔、ひげそり、歯みがき、食事、会話、冷たい風が顔に当たるといった日常の何気ない動作が引き金となることが多く、特定の場所に触れると痛みが誘発されることもあります。
ズキズキと持続する歯の痛みとは性質が異なるため、痛み方の違いが見分ける手がかりになります。
帯状疱疹による顔や歯の痛み
帯状疱疹は、子どもの頃にかかった水ぼうそうのウイルスが体内に潜伏し、免疫力の低下をきっかけに再び活動することで発症する病気です。北海道庁の情報によると、日本人の成人の90%以上が原因ウイルスを体内に持っているとされ、50歳代から発症率が高くなり、80歳までに約3人に1人が発症するといわれています。
帯状疱疹は体の左右どちらかの神経に沿って症状が現れ、初期には皮膚の痛みやかゆみが生じ、その後に水ぶくれを伴う発疹が出てきます。顔の三叉神経に沿って発症した場合、発疹が出る前の段階で歯や歯ぐきの痛みとして感じられることがあり、歯の病気と区別がつきにくいことがあります。
帯状疱疹の治療ではウイルスを抑える抗ウイルス薬が用いられ、早期に使うほど効果的とされています。
また、皮膚症状が治った後も痛みが続く「帯状疱疹後神経痛」という合併症もあるため、顔の片側の痛みに続いて発疹が出てきた場合は、できるだけ早く皮膚科などを受診することが大切です。
顎関節症による歯やあご周辺の痛み
顎関節症は、あごの関節やその周囲の筋肉に負担がかかり、あごの痛み、口が開けにくい、口を開け閉めするときに音がするといった症状が現れる状態です。あごを動かす筋肉の痛みが、歯の痛みのように感じられることもあります。
厚生労働省の「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」では、顎関節症はストレスとの関係が強いとされ、パソコン作業中の姿勢、頬づえ、片側だけで噛む癖などが悪影響を及ぼすと解説されています。
また、物を噛むとき以外は上下の歯を離し、顔の筋肉の緊張を解くよう心がけることが勧められています。
同サイトでは、発症から改善までには少なくとも数ヶ月かかるものの、ほとんどの人は外科的な治療を行わなくても症状が改善するとも紹介されています。
あごの違和感と歯の痛みが同時にある場合は、歯科で相談するとよいでしょう。
心筋梗塞・狭心症による放散痛(関連痛)
見落としてはいけないのが、心臓の病気による歯の痛みです。
心臓の筋肉に血液を送る冠動脈が狭くなったり詰まったりする「狭心症」や「心筋梗塞」では、胸の痛みだけでなく、心臓から離れた場所に痛みが現れることがあります。これを放散痛(関連痛)と呼びます。
国立循環器病研究センターの解説では、狭心症の痛みは前胸部やみぞおち、肩、首などに現れ、歯や喉が痛むこともあるとされています。
また、急性心筋梗塞でも、肩や腕、首の痛みのほか、歯の痛みが広がることがあると説明されています。
歯やあごに痛みが出ることがある理由
心臓の痛みを伝える神経と、あごや首、腕などの感覚を伝える神経は、脊髄の近い場所で情報が合流するとされています。そのため脳が痛みの発生場所を正確に区別できず、心臓の異常を歯やあごの痛みとして感じてしまうことがあると考えられています。
こうした痛みは、歯を叩いたり冷やしたりしても変化しないことが多く、歯科で調べても異常が見つかりません。
特に階段の上り下りや運動など体を動かしたときに歯やあごが痛み、安静にすると治まる場合は、心臓の病気が隠れている可能性があります。
胸の痛みや息苦しさをともなう場合は緊急受診が必要
国立循環器病研究センターによると、狭心症の発作は多くが1〜5分程度で長くても15分以内に治まるのに対し、心筋梗塞では15分以上、場合によっては数時間にわたって激しい痛みが続くとされています。
歯やあごの痛みとあわせて、胸の締め付けられるような痛みや圧迫感、息苦しさ、冷や汗、吐き気などがある場合は、歯科を受診するのではなく、ためらわずに119番通報をしてください。
特に高血圧・糖尿病・脂質異常症がある人や喫煙者、高齢の人は注意が必要です。
その他、日常生活が関係する歯の痛み
歯の痛みは、病気だけでなく、気圧の変化や心身の状態といった日常生活の要素によっても引き起こされたり、強まったりすることがあります。はっきりとした病気が見つからない場合でも、痛みには何らかの背景があると考えられています。
気圧の変化による歯の痛み
飛行機に乗ったときや登山中、台風の接近時などに、歯が急に痛み出す経験をする人がいます。
これは、気圧が下がることで歯の内部や歯の根の周囲、副鼻腔などにある空気や液体がわずかに膨張し、周囲の神経を圧迫することが一因と考えられています。
ただし、健康な歯が気圧の変化だけで強く痛むことはあまりなく、多くの場合は、治療しきれていない虫歯や詰め物の下のすき間、歯の根の先の炎症、副鼻腔炎など、もともと何らかの問題を抱えていた部分が症状として表面化したものとされています。
天候や移動のたびに同じ歯が痛む場合は、その歯に隠れたトラブルがあるサインとも受け取れます。
痛みが一時的に治まったとしても、一度歯科で状態を確認しておくと安心です。
ストレスや自律神経の乱れによる歯の痛み
強いストレスを感じると、無意識のうちに歯を食いしばったり、肩や首、あごの筋肉がこわばったりしやすくなります。この筋肉の緊張が続くと、歯やあごの周囲に痛みとして現れることがあります。
厚生労働省の「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」では、歯痛や開口障害、口臭などの歯科のトラブルそのものがストレスの大きな原因になる一方で、全身のストレスが顎関節症や口腔乾燥症、歯周病など様々な歯科疾患の発症・悪化要因になることが広く知られていると紹介されています。
ストレスと歯の痛みは、互いに影響し合う関係にあるといえます。仕事や家庭の状況が忙しい時期に歯の痛みが出やすい場合は、休息や睡眠を意識してとることも、症状を和らげるうえで役立つと考えられます。
検査で異常が見つからない「非歯原性歯痛」
歯や歯ぐきに原因がないにもかかわらず歯が痛む状態を、「非歯原性歯痛(ひしげんせいしつう)」と呼びます。
本記事で紹介してきた、筋肉の痛み、神経の痛み、副鼻腔の病気、心臓の病気による放散痛なども、この非歯原性歯痛に含まれます。
非歯原性歯痛で注意したいのは、原因が歯にないにもかかわらず、痛みを取り除くために歯の神経を取ったり抜歯したりしても、痛みが改善しないことがある点です。
治療を重ねても痛みが変わらない場合は、別の原因を疑う視点が必要になります。
近年は、口や顔の慢性的な痛みを専門に扱う「口腔顔面痛外来」を設ける大学病院や医療機関もあります。
歯科で異常がないと言われたのに痛みが続く場合は、かかりつけの歯科医師に相談し、専門の医療機関を紹介してもらうことも選択肢のひとつです。
歯が痛むときに自分でできる応急処置
夜間や休日など、すぐに歯科医院を受診できない場面で歯が痛み出すこともあります。
ここで紹介する方法は、あくまで受診までの間に痛みを和らげるための一時的な対処であり、原因そのものを治すものではない点に注意が必要です。
痛む部分を冷やすときの正しい方法
歯ぐきの腫れや炎症によるズキズキとした痛みは、患部を冷やすことで一時的に和らぐことがあります。
冷やすときは、冷たい水で濡らしたタオルや、タオルで包んだ保冷剤を、痛む側の頬の外側からやさしく当てるのが基本です。
注意したいのは、氷や保冷剤を直接長時間当て続けないことです。
冷やしすぎると皮膚を傷めたり、血行が悪くなって治りが遅れたりするおそれがあります。
心地よいと感じる程度の冷たさで、様子を見ながら短時間ずつ行うのがよいとされています。
また、知覚過敏が原因の場合は、口の中に氷を含むなど直接冷たい刺激を与えると、かえって痛みが強くなることがあります。痛みの原因がわからないうちは、口の中ではなく頬の外側から冷やすようにしましょう。
市販の鎮痛薬を使う際の注意点
薬局やドラッグストアで購入できる鎮痛薬は、受診までの痛みを一時的に抑えるのに役立つことがあります。
使用する際は、必ず添付文書をよく読み、記載されている用法・用量や服用間隔を守ることが大切です。
持病がある人、ほかの薬を服用している人、妊娠中・授乳中の人、過去に薬でアレルギーや喘息の発作を起こしたことがある人は、自己判断で服用せず、薬剤師や医師に相談してから使用しましょう。
なお、鎮痛薬で痛みが治まっても、原因となっている炎症や病気が治ったわけではありません。
痛み止めを飲み続けることで受診のタイミングを逃し、症状を悪化させてしまうケースもあるため、薬はあくまで「受診までのつなぎ」と考えることが重要です。
また、痛む歯に錠剤を直接置くなど、本来の使い方と異なる方法は粘膜を傷める原因となるため避けましょう。
痛みが出ているときに避けたい行動
歯が痛むときには、日常の何気ない行動が痛みを強めてしまうことがあります。
特に炎症が原因の痛みでは、血行が良くなる行動に注意が必要です。
入浴・飲酒・激しい運動が痛みを強める理由<
長時間の入浴、飲酒、激しい運動は、いずれも全身の血行を促進します。
炎症が起きている部分に血液が多く流れ込むと、周囲の組織が圧迫されて痛みが強くなりやすいといわれています。夜、布団に入って体が温まった頃に痛みが増すのも、同じ理由と考えられています。
歯が痛む日は、入浴は短時間のシャワー程度にとどめ、お酒や激しい運動は控えるとよいでしょう。
就寝時は、枕を少し高くして頭の位置を上げると、痛みが和らぐ場合もあります。
痛む部分を舌や指で触らない
痛みが気になると、つい舌や指で患部を触ったり、押して確かめたりしたくなるものです。
しかし、炎症を起こしている歯ぐきや歯を刺激すると、痛みが強まるだけでなく、指から細菌が入り込んで炎症を悪化させるおそれがあります。
また、腫れた歯ぐきを自分で針などでつついて膿を出そうとする行為も、感染を広げる危険があるため避けるべきです。口の中は、やわらかい歯ブラシでやさしく清潔に保つ程度にとどめ、患部への刺激はできるだけ控えましょう。
歯科医院・医療機関を受診すべき目安
虫歯ではない歯の痛みは原因が多岐にわたるため、「どこに」「いつ」相談すべきか迷う人も少なくありません。
ここでは、受診を急ぐべき症状と、歯科以外に相談先となる診療科の目安を整理します。
すぐに受診を検討したほうがよい症状
次のような症状がある場合は、様子を見ずに早めの受診を検討することが勧められます。
•何もしていなくても強い痛みが続き、夜も眠れない
•歯ぐきや顔が大きく腫れている、発熱がある
•口が開けにくい、飲み込みにくい
•市販の鎮痛薬を使っても痛みがほとんど治まらない
•顔の片側に痛みがあり、その後に発疹や水ぶくれが出てきた
特に歯やあごの痛みとともに胸の痛みや締め付け感、息苦しさ、冷や汗、吐き気などがある場合は、心筋梗塞などの可能性もあるため、すぐに119番通報をしてください。
救急車を呼ぶべきか迷う場合は、救急安心センター事業(#7119)を利用する方法もあります。
総務省消防庁によると、#7119は急な病気やけがの際に医師や看護師などの専門家が電話で相談に応じる事業です。ただし、実施状況は地域によって異なるため、お住まいの自治体の情報を事前に確認しておくと安心です。
歯科で原因が見つからない場合に相談する診療科
歯の痛みを感じた場合、まずは歯科を受診し、歯や歯ぐきに原因がないかを確認してもらうのが基本です。
そのうえで歯に異常が見つからない場合は、症状に応じて他の診療科への相談が必要になることがあります。
自己判断で診療科を選ぶよりも、歯科医師から紹介を受けるほうがスムーズに進むケースも多いでしょう。
耳鼻咽喉科・脳神経内科・循環器内科・口腔顔面痛外来の役割
症状ごとの主な相談先の目安は、以下のとおりです。
| 主な症状 | 疑われる原因の例 | 相談先の目安 |
| 上の奥歯の痛み+鼻づまり・鼻水 | 副鼻腔炎(上顎洞炎) | 耳鼻咽喉科 |
| 顔の片側に電気が走るような痛み | 三叉神経痛 | 脳神経内科・脳神経外科 |
| 体を動かすと歯やあごが痛む、胸の痛みや息苦しさ | 狭心症・心筋梗塞 | 循環器内科(緊急時は119番) |
| 顔の片側の痛み+発疹・水ぶくれ | 帯状疱疹 | 皮膚科 |
| 原因不明の慢性的な歯や顔の痛み | 非歯原性歯痛 | 口腔顔面痛外来など |
なお、この表はあくまで一般的な目安です。
実際の診断は医師・歯科医師が診察や検査を通じて行うため、症状が当てはまるからといって自己判断で病名を決めつけないようにしましょう。
受診時に医師へ伝えるとよい情報
原因の特定が難しい歯の痛みでは、患者自身が伝える情報が診断の大きな手がかりになります。
診察の時間は限られているため、事前に情報を整理しておくと、医師や歯科医師とのやり取りがスムーズになります。
痛みが始まった時期・痛み方・痛む時間帯を整理しておく
受診前には、次のような点をメモしておくと役立ちます。
• 痛みが始まった時期と、そのきっかけ(風邪をひいた、硬いものを噛んだなど)
• 痛み方(ズキズキ、ジーン、電気が走るような、重だるいなど)
•1回の痛みが続く時間と、1日のうちに痛む時間帯
•痛みが強くなる・弱くなる動作や状況(噛む、横になる、運動するなど)
•歯以外の症状(鼻づまり、発熱、発疹、胸の痛みなど)
•服用中の薬や持病、過去の歯科治療歴
スマートフォンのメモ機能などに日付とともに記録しておくと、痛みの変化を客観的に伝えやすくなります。
虫歯以外の歯の痛みを防ぐために日常でできること
虫歯以外の歯の痛みの中には、日々の習慣を見直すことで予防や悪化の防止が期待できるものも多くあります。
ここでは、毎日の生活の中で取り入れやすいポイントを紹介します。
正しいブラッシングと歯科での定期検診
歯周病や知覚過敏の予防には、毎日の歯みがきが欠かせません。
ただし、汚れを落とそうと力を入れすぎると、歯の表面がすり減ったり歯ぐきが下がったりして、かえって知覚過敏の原因になることがあります。毛先を歯と歯ぐきの境目に当て、小刻みにやさしく動かすのが基本とされています。歯ブラシだけでは届きにくい歯と歯の間は、デンタルフロスや歯間ブラシを併用すると効果的です。
さらに、セルフケアだけでは取り切れない歯石や汚れを除去するためにも、歯科での定期的な検診とクリーニングが重要です。歯周病は初期の自覚症状が乏しいため、痛みが出る前に専門家にチェックしてもらうことで、早期の発見・対応につながります。
受診の間隔は口の状態によって異なるため、かかりつけの歯科医師と相談して決めるとよいでしょう。
歯ぎしり・食いしばり対策
日中の食いしばりは、意識することで減らせる場合があります。本来、口を閉じているときでも上下の歯は数ミリ離れているのが自然な状態とされています。厚生労働省の「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」でも、物を噛むとき以外は唇を閉じた状態でも上下の歯を離し、顔の筋肉の緊張を解くよう心がけることが勧められています。
パソコンやスマートフォンの作業中は、画面に集中するあまり歯を食いしばりがちです。
作業の合間に肩や首を回したり、あごの力を抜いたりする習慣をつけるとよいでしょう。
また、頬づえや片側だけで噛む癖も、あごへの負担を偏らせる原因になります。
睡眠中の歯ぎしりは自分でコントロールすることが難しいため、歯のすり減りやあごの痛みなどが気になる場合は、歯科で相談するのが確実です。マウスピースの使用などにより、歯やあごへの負担を軽減する方法が検討されます。
睡眠・ストレス管理で体調を整える
歯周病の急性化や親知らずの炎症、帯状疱疹などは、疲労や睡眠不足、ストレスによる免疫力の低下がきっかけとなりやすいとされています。十分な睡眠と、栄養バランスのとれた食事、適度な運動を心がけることは、全身の健康だけでなく、口の健康を守ることにもつながります。
また、ストレスは歯ぎしりや食いしばり、顎関節症の要因にもなるといわれています。
趣味の時間を確保する、入浴やストレッチでリラックスするなど、自分なりのストレス解消法を持っておくことも大切です。
喫煙は歯周病を悪化させる要因として知られているほか、心臓の病気のリスクも高めます。歯や全身の健康のために、禁煙を検討することもひとつの方法です。
まとめ:虫歯じゃない歯の痛みは早めの原因特定が大切
何もしていないのに歯が痛む場合、その原因は虫歯だけではありません。
知覚過敏や歯周病の急性化、歯ぎしり・食いしばり、歯のひび割れ、過去に治療した歯の根の炎症、親知らずの炎症といった歯まわりのトラブルに加え、副鼻腔炎、三叉神経痛、帯状疱疹、顎関節症、さらには狭心症や心筋梗塞など、歯以外の病気が痛みとして現れることもあります。
痛みの原因を見極める手がかりは、「どのような痛みが」「どのくらい続き」「どんなときに強くなるか」という情報です。受診までの間は、頬の外側から冷やす、市販の鎮痛薬を正しく使う、血行を良くする行動を控えるといった方法で痛みを和らげることができますが、これらはあくまで一時的な対処にすぎません。
まずは歯科で歯や歯ぐきの状態を確認し、原因が見つからない場合は症状に応じて他の診療科へ相談することが、早期の改善につながります。とくに、胸の痛みや息苦しさをともなう場合は、迷わず119番通報をしてください。
歯の痛みを「そのうち治る」と放置せず、体からのサインとして受け止めることが大切です。
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の診断や治療効果を保証するものではありません。症状や治療方針については、必ず医師・歯科医師にご相談ください。
また、制度や統計などの情報は更新される場合があるため、最新の内容は各公的機関の公式サイトでご確認ください。